ロンゴミニアドを見つけた士郎達は居間に戻り、一連の流れを説明する。
しかし、一部を除いていまいちぴんとこないように思える。
「ロンゴミニアド?初耳なのですが、アーサー王といえばエクスカリバーじゃないのですか?」
秋葉の感想は一般的といえばその通りなのだが、本人を目の前にしている事を踏まえれば十分に失礼なものであり思わず
「秋葉」
志貴が窘めるほどだった。
慌てて秋葉が謝罪するが、アルトリアは特に怒る事というかそんな気配も見せる事はなかった。
「アルトリアさん、怒らないのですか?」
起こる気配を見せないアルトリアに翡翠が不思議そうに尋ねる。
「あまり有名でないのも仕方ありません。私が王位についていた頃はエクスカリバーを前面に押し出して戦い続けてきました。その為にエクスカリバーの名は吟遊詩人達を通じて周辺の国々に遍く広がりましたが、その影に隠れた形になったロンゴミニアドの知名度は低いのです。当時でさえこれを知るのは懐かしき円卓の騎士達だけ。そして、これを振るったのはカムランの丘でモードレッドを貫いた時だけでした」
そういうアルトリアの表情には懐かしさと苦い述懐が混じったものが滲み出ている。
「だけどロンゴミニアドを決して侮っちゃいけない。元々こいつは現実と幻想、言うならば世界の表裏を繋ぎとめたと言われている伝説の槍だ。ましてやこいつはエクスカリバーと同じ神造兵器。その威力はエクスカリバーに比肩・・・いやもしかしたら凌駕する可能性だってある」
士郎の断言に言葉を失う。
「シロウ、ロンゴミニアドの凄さは良く判ったけど、肝心のアルトリアの身体の異常については何の進展もないんじゃないの?」
と、イリヤが冷静に意見を言う。
確かにイリヤの言うように現状解明しなければならないのはアルトリアの突然の成長についてでありロンゴミニアドがあろうとなかろうと特に問題はないように思われた。
しかし、アルトリアは首を横に振り、
「いいえ、イリヤスフィール、謎の大半は解明されました」
「ふぇ?」
極めて珍しいアルトリアの断言にイリヤは素っ頓狂な声を発する。
他の面々も似たような表情をしていたが、シオン一人だけ何か納得したような表情を浮べる。
「そういえばさっきも言っていたがどう言う事なんだアルトリア?ロンゴミニアドと現状の成長には関係が?」
「はい、これから説明しますがまず、これは私の憶測も入っているので全てが確信ある言ではないと言う事だけは念頭に入れておいて下さい」
アルトリアの言葉に全員が頷く。
「まず、私の身体・・・いえ、むしろ霊基が急激に成長・・・というよりも変化した原因ですが、ほぼ間違いなくこのロンゴミニアドです。先程も言いましたし全員知っているとは思いますが私の身体は選定の剣を抜いた時から成長は完全にストップしています。これはエクスカリバーと鞘であるアヴァロンの力・・・所有者を不老とする能力の恩恵を受けているからです。ですがロンゴミニアドにはその力は存在しません。その分槍自体の力を上げていますが」
「じゃあその姿は」
「ええ、おそらく、選定の儀の折に手にしたのが聖剣ではなく聖槍であった私なのでしょう・・・まさか成長した私がここまで・・・・その・・・女性らしい身体になった事だけは・・・想定外でしたが」
現在の自分の身体つきを思い出したのか頬を赤らめてうつむくアルトリア。
一瞬それに嫉妬やら殺意やらが集中しそうになるが、それを咳払いで軌道修正したのはルヴィアだった。
最も、当のルヴィア自身もこめかみに血管を浮べかけていた事を考えると、感情を意志の力を総動員してどうにかねじ伏せたのであろう。
「んんっ、アルトリアさん、貴女が女性らしい体に成長したのがロンゴミニアドに原因があると言う事は判りました。ですが何故それが今いきなりアルトリアさん手元に現れたのか?それにこの騒動の根幹でもある、何故ロンゴミニアドが現れた途端、アルトリアさんの身体が急激な成長を遂げたのか?その原因が掴めていませんわ。最初からロンゴミニアドを手にしていたのであればまだしも」
「ええ、ルヴィアゼリッタ判っています。私は聖剣を手にした私であって、聖槍を手にした私ではありません。ですが今私の手元にはロンゴミニアドがある。そうなると考えられるとすれば、ロンゴミニアドが私に引き寄せられてここに来たとしか思えません」
「ロンゴミニアドが、アルトリアに?だけど、そんな事が可能なのか?」
「多分、私が先日神霊に昇格した事が関係していると思います。エクスカリバーもロンゴミニアドも神造兵器、神霊との相性と親和性も高い筈です。ましてやここは神界、あらゆる並行世界との繋がりも深い。その為」
「神霊になったアルトリアに引き寄せられてここに来たと」
士郎に問いに首を縦に頷く。
「ではなぜアルトリアの身体が成長したのでしょうか?」
「こちらもおそらくですが、今の私の姿は成長したのではなくこの姿に入れ替わった・・・いえ、正確にはこの姿に着替えたのかも知れません」
「入れ替わる?」
「えっと・・・着替えるって・・・」
アルトリアの言い出した言葉にシオンを除く一堂が困惑する。
その困惑は最初から判っていたのかアルトリアは説明する労を惜しまなかった。
「混乱させて申し訳ありません。ですが私もこれ以外に相応しい表現が思いつかないのです。今朝眼を覚ましリン達に指摘を受けるまで私は自身に起こった事を認識出来ませんでした。それほど自然にこの霊基は馴染んでいたのです。ですがシオンが先刻言っていたように霊基が急激に成長したにも拘らず障害も負荷も存在していないなどありえません。とするのであれば」
そこへシオンが語を繋ぐ。
「ロンゴミニアドを持っていたアルトリアの霊基のみがロンゴミニアドに引き摺られるようにこちらにやって来て今までのアルトリアの霊基と入れ替わったと言う事ですね・・・確かにありえます。アルトリアの霊基が何らかの原因で変化した仮説もありましたが、それを証明するための証拠が余りにも乏しかったのですが、ロンゴミニアドというキーパーツが加われば話は変わっていきます。まだ仮説の段階ですが、現状では最も有力な仮説でしょう」
と、そこへ話の内容を飲み込めたのか
「えっと・・・つまりこう言う事?別の平行世界からその・・・ロンゴミニアド?がこっちのアルトリアの霊基と一緒に神界に来て、ロンゴミニアドが出現すると同時にアルトリアの霊基が入れ替わった事で今のアルトリアがこうなっちゃった・・・で言いの?」
アルクェイドが極めて判りやすくアルトリアの身に起きた事を口にしてくれた。
「ええアルクェイド。判りやすい説明ありがとうございます」
シオンはにこりと微笑んだ。
これで問題は解決と誰もが思っていたが、さつきが不意に発した言葉が弛緩した空気を張り詰めさせた。
「でもでも、アルトリアさんの今までの霊基はどうしちゃったの?それにエクスカリバーはどうしちゃったんだろう?第一、アルトリアさんを元に戻す手段ってないのかな?」
その疑問に再び緊張が張り詰める。
さつきの言うように凡その推察が出来上がったのはあくまでもアルトリアの身に何が起こったのかであって、それ以外のことに関しては何も判っていない。
「そう言えば・・・なあ士郎、アルトリアさんの部屋にエクスカリバーは」
「いや・・・無かった。アルトリアの部屋はそれほど広くも無いが、見つからない筈が無い。それにいままでのアルトリアの霊基らしきものも・・・第一戻す術に関しては・・・」
再び沈痛な面持ちになりかけたが
「心配は要りません志貴、士郎、その件についてもある程度の見当はついています」
そう言い切った後シオンはアルトリアに
「アルトリア、エクスカリバーですが」
途中までだったが、シオンが言いたい事は理解しているのか
「ええ、シオン、貴女の考えている通りだと思います。シロウの言うように部屋にロンゴミニアドはあってもエクスカリバーは無かった。多分」
「それでは」
「おそらく」
主語の抜けた会話に
「ちょっとちょっと!シオン、アルトリア、あんた達だけで理解した会話しても困るんだけど!」
「すいませんアルトリアさんシオンさん説明してもらえると助かるんですが・・・」
凛が全員の心境を代弁し、桜が詳しい説明を控えめに要請した。
「そ、そうでしたね。すいませんリン、サクラ」
「これも推測に過ぎませんがおそらく、エクスカリバーとロンゴミニアド、そし聖剣を持つ私の霊基と聖槍を持つ私の霊基、これらは表裏一体のような関係になったものと思われます」
「表裏一体?」
「はい、シロウの言うように今ロンゴミニアドはあってもエクスカリバーはありません。この神界にと言うよりはこの時空自体に存在していないんです。これは聖剣を持つ私の霊基も同様です。つまりはロンゴミニアドと聖槍を持つ私の霊基はこの神界に引き寄せられ、まず、エクスカリバーとロンゴミニアド、聖剣と聖槍の私の霊基が一つになった。正確にはカードの表裏のように背中合わせのような関係かもしれませんが」
「じゃあその例えで言うと、カードの境目と言うべきなのがアルトリアの魂、若しくはこの時空と言う所なのか?」
「はい、シロウ。そしてそのままエクスカリバーが表に出ている状況であれば問題はありませんでした。ですが、原因は不明ですが、何らかの事情でロンゴミニアドが表に出てしまった。それによって結びつきの強い聖槍の私の霊基もまた入れ替わり、その結果今回の騒動に発展してしまった・・・以上が今回突然私の体が変化したかの仮説です」
「なるほどな・・・生前から神造兵器を持っていた事、アルトリアさんが神霊に昇格した事、そしてここがあらゆる並行世界との結び付きがある神界だった事・・・この三つの要素が合い混ざった事でこの騒動が起こったって事か・・・前例は無いけどありえない事じゃあないよな士郎」
「ああ、そもそも生前から神造兵器を持つ人間自体が稀だ。ましてやその持ち主が英霊どころか神霊になるなんて多分アルトリアが最初で最後だろうな・・・それでアルトリア。さっきの理屈で言うともう一度エクスカリバーに入れ替える事は出来るのか?」
「ええ、入れ替わっただけであるならば、もう一度入れ替え直す事は不可能ではない筈。やってみましょう」
「大丈夫なの?アルトリアいきなりなんて」
「問題はありません。エクスカリバーもロンゴミニアドも私の所有物。扱いは知り尽くしています。ましてやこの程度の事も、己が得物も自由自在に出来ぬようで何が騎士の神霊ですか」
イリヤの疑問に不敵にかつ自信に満ちた声で断言してのけると、ロンゴミニアドを両手で握り締めるやそれを掲げ眼を閉じ意識を集中させる。
二分、五分、十分と時間が過ぎていく。
だが、ロンゴミニアドに変化は無く、アルトリアの額に一筋の汗が流れ落ちるが、アルトリアは微動だにしない。
普段であるならばアルクェイドやイリヤ、カレンにレイと言った面子が茶々を入れてきそうなものだが、流石にこの張り詰めに張り詰めきった空気の中それを壊すような真似はしない。
そのまま更に、十二分、十四分、十八分と時間だけ無情に過ぎていく。
やはり無理なのか?
仮説は間違っていたのか?
そんな思いが脳裏に過ぎった時ロンゴミニアドが光を放ち始める。
光は網膜を焼くような強く熱いものではなく柔らかく暖かいもので、あるが光が強くなっていくに従い、ロンゴミニアドは徐々に姿を槍から変えていく。
そしてそれに従うように、アルトリアの横顔は見慣れたものに変わりつつある。
そしてロンゴミニアドが光を発してから数分後、光が徐々に弱くなり完全に消えた時アルトリアの手にはエクスカリバーが握られ、アルトリアはいつもの姿に戻っていた。
その姿を見た瞬間全員から安堵の溜息がもれ出る。
何だかんだ言ってもやはり全員不安は少なからずあったようだった
「ふぅ・・・これでシオン、お前の仮説が実証されたな」
「はい」
何処か安堵したような志貴の声に、同じ位安堵の思いを短い一言だけで返すシオン。
自分の姿が元に戻ったことを理解しているのかアルトリアも緊張を解いて安堵の笑みを浮べ、士郎達も同じ位安堵の表情を浮べた。
「色々とご心配をかけてすいませんでした。ですが、如何にか元に」
そう良いながら立ち上がろうとしたアルトリアだったが、不意に肩口がずり落ちた。
見れば服がぶかぶか(特に胸部分が)になっている。
今までのアルトリアでちょうど良いサイズだった服が、元に戻った事でサイズダウンしたのだから無理も無い。
「ああそうだったわね。一先ずアルトリア、あんた服をいつものに着替えた方が良いわね」
「ですね。リーズリットさんの服は洗濯機に置いておいて下さい。後で私が洗濯して置きますから」
「ええ、そうしておきます。リーズリット服はありがとうございました」
「いいよ別に。それ位ならお安い御用」
そう言ってからメイド服のスカートを引き摺って自室に向かうアルトリアを見送ると、士郎は志貴達に
「ありがとうな志貴。色々助かった」
そう言って頭を下げるが、志貴は苦笑しながら
「俺は別に対した事はしてないって。むしろ礼を言うのは」
そう言ってシオンを指差す。
「ああそうだった。シオンさんありがとうございました」
「そんな礼を言われる事はしていません。私がしたのはアルトリアの検査と仮説をいくつか立てただけなのですから」
「それでもです。正直シオンさんの検査や仮説が無ければ今でも右往左往していたと思いますから」
そう言って穏やかに笑い合っていた。
そうして時も過ぎ夜。
朝方の騒動もすっかり収束しその後はいつもの様に穏やかな日常が戻る。
あの後、志貴達に謝礼をかねて宴会の提案をしたが、志貴から
『気持ちは嬉しいがうちはシオン以外、今回は対した事はしていない。それに色々口実付けて宴会ばかりやっていると、かえって宴会のありがたみが薄れてしまうから今回は遠慮するよ』
と笑ってそれを固辞。
『七星館』へと帰宅していった。
(何人かはいささかがっかりした表情を浮べていたが)
その後はいつもの日常がつつがなく過ぎて行き夕食、入浴も終わり士郎は自室にいる。
これから閨の時間だ。
「んんっ・・ふぅ今日はばたばたした日だったが大事にならなくて良かった」
布団の上で背伸びしながらしみじみと士郎は本音を漏らす。
「そういえば今日は誰だろうな?」
そう言うが士郎は別に健忘症ではない。
と言うのも士郎達もまた志貴達と同じくローテーションを組んでおり、(生前の初めて結ばれた時はラインを結ぶのが主目的であった為手を抜いていたが、神界での再会時と初夜時には元英霊であるアルトリア、メドゥーサも含めて全員『九夫人』達の二の舞にされた)基本としては一人、当人達で了解が取れれば複数での閨の時を士郎と過ごす。
まあ一対一であってもハンデキャップマッチであっても『剣神の妻』が夫に閨で勝てた事は未だ一度も無いが。
(その原因が、生前イスカンダルに強要されてするしかなかった娼婦百人切りによって性豪へと仕立て上げられた事にある事を知った時アルトリアを筆頭に全員が征服王への怒りを露にした後で士郎に八つ当たりをしたが完全な余談だ)
だが、それでは面白みがないとイリヤが主張、それに凛が同調しローテーションを一巡した後順番をシャッフルする事になった。
(尚話を聞いたアルクェイドが面白そうだと自分達も順番をシャッフルしようと言い出したため『九夫人』達もシャッフル制を導入したようだった)
順番を決める方法の条件はただ一つ『全員に公平な勝負である事』。
そのルールに則って順番の決め方はその都度違うようだ。
桜からちらりと聞いた話だと、三つほど前はママチャリでのハンデ付きのタイムアタックで、その次は何故だが家にあったTVゲームで決めたらしい。
と、不意に外に人の気配がする。
同時に襖が開かれると
「失礼しますシロウ」
「ああ、今日はアルトリア・・・かってあれ?」
入ってきた人物・・・アルトリアに士郎は困惑した表情を見せた。
無理もないと言えば無いだろう。
何しろ今のアルトリアは何故だか鎧の下に着るドレスを身に纏い、更にその手にエクスカリバーを持ったのだから。
「えっと・・・アルトリアどうしたんだ?」
戸惑った声を発する士郎を他所にアルトリアは襖を閉めるとエクスカリバーを部屋の隅に置くと士郎と対面するように正座する。
「シロウ。今日は色々とお騒がせして申し訳ありませんでした」
そう言って深々とお辞儀する。
「別にあれはアルトリアの責任じゃあないだろう。まさか平行世界からロンゴミニアドとそれを引き摺られてIFのアルトリアの霊基だけが来るなんて予想も出来ないだろう」
「それはそうですが、私の事が原因で騒ぎを起こした事は事実なので」
「もう済んだ事だし、解決もしたんだから気にしなくても良いって」
アルトリアの謝罪を笑って受け入れる士郎。
実際士郎にとっては今日の騒動はもはや解決した事なのだから。
「とにかく!この件で謝るのはこれで終わりって事で」
「はい、ありがとうございますシロウ」
「で、アルトリア、ここに来たのは謝罪する為だけか?それとも・・・」
「いえ、今日は私がシロウとの閨の番です」
「そっか、でもなんでそのドレスとその・・・エクスカリバーを?」
「ああこれですか・・・その実は・・・」
そう言ってから何故か頬を赤く染めてから口を噤んでしまったアルトリア。
しばし無言の時が過ぎてからようやくアルトリアが口を開いた。
「シロウ・・・実はシロウに頼みがあるのです」
「??頼み?」
「はい、あの後色々試してみたのですが、少しだけコツを掴んできたみたいでエクスカリバーとロンゴミニアド、この二つの入れ替えがスムーズに行える様になってきたのです」
「スムーズに?」
「はい、見ていて下さい」
そう言うとエクスカリバーを手に眼を閉じて意識を集中する。
するとエクスカリバーから光が溢れエクスカリバーはロンゴミニアドに姿を変え、それに伴いアルトリアの霊基もまた姿を変える。
時間にしておよそ五分程度、短縮されたのは明らかでアルトリア曰く『スムーズに』と言うレベルを超えている。
「いや、もう十分使いこなしているんじゃないのか?」
「いいえ、まだまだ未熟です。意識を集中させなければ変える事は出来ませんし、変化の間は完全に無防備です。ようやくここまで短縮させましたが、もっと変化に必要な時間を極限まで短縮させた後、次は意識を集中せずとも変化できるようにして、最終目標としてはシロウの投影と同じレベルの時間と精度です。まだまだ先は長く、そうでなければ実戦で使えません」
士郎にそう言い切るアルトリア。
「あと、そんな頻繁に霊基を変えてアルトリア自身の魂は大丈夫なのか?」
「それについてもご心配は要りません。聖剣の私も聖槍の私も違う平行世界ですが大本は私です。ですから魂の相性も極めてよく違和感もありません。シロウも聞いたでしょうリン達があの姿に変身出来る様になってしまった経緯を」
「あ~、あれか・・・」
生前士郎は凛達五人が何故魔法少女姿になれるのか数回程度であるが聞こうとしたのだが、全員から猛烈な拒否反応を受けた上、アルトリアを始めとする事情を知る側からも『そっとしておいて欲しい』と懇願までされて聞くに聞けず結局真相を聞く事が出来たのは神界に来てからだった。
それすらも凛曰く『クソ馬鹿杖共』が神界にまで押しかけてきた事がきっかけとなり文字通りなし崩しに判明してしまったからであるが。
「それに士郎もご存知の筈です。騎士の神霊は愚かしき争いの調停の為に、軍神の代理人として戦場に赴かなければならない事があるを」
その問いに士郎は頷く。
士郎を始めとする剣神はもはや手の施しようの無い世界を終焉に導くべく現れるいわば死刑執行人であるが、その前段階として神々が人々を戒めるべく仲裁や制裁を加える事がある。
その先鋒として調停、仲裁を行うのべくさまざまな平行世界に降り立つのがアルトリアが神霊となった騎士の神霊を始めとした軍神系統の神霊たちである。
「せっかくロンゴミニアドが私の元へ赴いてくれたのです。ロンゴミニアドを十二分に振るう為にも新たな力を完全に己が手にしなければなりません。」
「なるほど」
生真面目なアルトリアらしいと士郎は微笑む。
「で、頼みって言うのは」
「は、はい・・・」
そこで再びアルトリアの頬が赤く染まる。
「それで、少しでも慣れる為に変化の訓練を行いますがその・・・閨の時でも訓練を行いたいのです・・・もしご迷惑でなければ・・・聖剣の私であっても・・・聖槍の私であっても・・・若しくは双方ともを抱いてはもらえないでしょうか・・・む、無論シロウに負担が大きすぎ迷惑と言うのであればこの話は聞かなかった事に・・・シロウ?」
その時士郎はアルトリアの話をほとんど聞いていなかった。
気付いていないようだが、今のアルトリアはロンゴミニアドのアルトリア。
その為に胸元の開いたドレスはアルトリアの霊基が変化した事で破けてはいないが、朝の時と同じく内側から大きく持ち上がり、魅惑の谷間を士郎に惜しむ事無く見せ付けている。
まあ今は閨の時間であり、見ているのは最愛の夫である士郎一人なのだから気付いたとしても嫌な気分にはならないだろう。
見慣れたアルトリアだと言うのに姿は大人の女の色香を湛えたにも拘らずその仕草はいつものそれ。
そのギャップに士郎は生唾を飲み込んでから、残り僅かの理性を総動員して己が獣性を一時停止させてからアルトリアに最後の質問をした。
「・・・別に俺に問題は無いぞ。と言うか大歓迎だし。それで今夜は聖槍のアルトリアでするのか?」
「え、えっと・・・シロウの・・・望む・・・ままに・・・」
恥じらいながら言うアルトリアの姿は士郎の理性を根こそぎ消滅させるに十分なものだった。
「じゃあ・・・今夜は存分に両方のアルトリアを味わうとするよ」
士郎らしからぬ欲望駄々漏れな笑みを浮べて発したこの一言から始まったそれは、夜が更けるまで延々と続けられる事になった。
ちなみに中に関しては防音をかねて士郎が『全て遠き理想郷(アヴァロン)』で完全防備を施している為垣間見る事は出来ない。
翌朝、いつもの時間にいつものようにランニングする士郎に
「おはよう士郎」
「ああ、おふぁああ・・・ぁぁ悪い、おはよう志貴」
志貴が並走しながらの挨拶にあくび交じりの挨拶を返す。
「やけに眠そうだな何かあったのか?」
昨日が昨日だっただけに不審そうに尋ねる志貴だったが、士郎の返事に苦笑を浮かべた。
「ああ、ちょっとアルトリアの魅力を再発見しちまってな、俺が張り切りすぎたが為の寝不足だ。気にしないでくれ」
「・・・程々にな」
「・・・努力はしとく」